株式会社京都新聞社 山内 康敬 社長

2020年12月14日#新聞

山内社長、本日は宜しくお願いします。早速ですが、京都新聞社は何をされている会社なのですか?

京都新聞社は朝刊と夕刊を発行している会社です。そして、地方新聞社としての役割を果たす会社です。

地方新聞社としての役割とはどういうことですか?

新聞には種類があります。まず、ほぼ全ての地域で発行されている全国紙。例えば、「読売新聞社」「朝日新聞社」「日本経済新聞社」などがあります。そして、都道府県を跨がって発行されているブロック紙。例えば、「中日新聞」「北海道新聞」「西日本新聞」などがあります。そして、その次に我々「京都新聞社」などが発行する県紙があります。県紙は大体、「一県一紙」とひとつの県にひとつの地元紙が存在するのですが、存在しない県もあります。例えば、お隣の滋賀県はありません。なので、私たちが滋賀の内容も取り上げて発行しています。大阪、和歌山もありません。一般的にはブロック紙、県紙、県内地域紙を合わせて地方紙と呼びます。

新聞の種類というものがあるんですね。

そうですね。そして、各新聞紙には役割もあります。例えば、全国紙の役割は国政を中心に、国内外のニュースを全国一律に伝えることです。私たちの役割は地方新聞社として、京都・滋賀の行政、経済、人々の動きを中心に届けることです。

(写真:京都新聞社本社ビル)

なるほど。時代が流れとともに「新聞離れ」と叫ばれている今日ですが、京都新聞社でもこの傾向は感じられますか?

そうですね。私の子供の頃、昭和の時代はちゃぶ台の上に新聞があるのは普通の光景でした。しかし今は、新聞購読者数よりも新聞を取っていない人の数の方が多いです。実際に、京都新聞の発行部数もピーク時のおおよそ50万部から40万部まで落ちてしまいました。

何が原因だとお考えでしょうか?

スマートフォン(以降、スマホ)の出現が大きな原因のひとつだと思います。1990年代後半から日本でインターネットが普及し始めるのですが、それは新聞社にとって脅威ではありませんでした。その頃は情報を得る手段として、新聞の方が明らかに優れていたからです。2000年代前半には「ガラケー」が普及し、NTTドコモが提供するi-mode(アイモード)などで情報を得ることもできましたが、便利性に欠けていたのでそれも脅威ではありませんでした。しかし、2008年に日本でiPhoneが発売され、そこから一気にスマホが普及し、その普及とともに新聞の発行部数も減少していきました。その原因としてスマホの便利性もありますが、私たち新聞業界も失敗をしています。

どんな失敗をしたのですか?

新聞の宣伝になると思って、「Yahoo! News」や「LINE NEWS」などのWebメディアに記事やコンテンツをほとんど無料で提供したことが失敗でした。最初は、本当に余り物の記事や情報を提供しているに過ぎませんでした。しかし、スマホの便利性故に、だんだんと閲覧数も伸びてくるようになったので、余り物だけではなく普通の記事や情報も提供するように変わっていきました。今では、スマホのWebメディアに新聞社が情報を出し合う、というような状態になっています。そのようなことをしても、ほとんどお金にならないのが悲しい現状です。

なるほど。では、「新聞離れ」が進むなかで京都新聞社が大切にしていることは何ですか?

これは京都新聞社だけではなく、新聞社全体にも言えることなのですが、新聞がこれまで一番大切にしてきた、“信用”“信頼”を失わないことです。

どうしてそう思うのですか?

Webメディアとどう差別化を図ろうか、と考えた時に、“信用”“信頼”が重要になってきます。例えば、私たちが政治の論争について記事に載せる時に、読者と意見が異なる可能性があります。それでも読者が記事を読んで「こういう意見も一理あるよな」と思うのは、京都新聞社という媒体を信用しているからです。それほど“信用”“信頼”は新聞社にとってとても大切です。

私も“信用”“信頼”は大切なもののひとつだと思います。では、京都新聞社の強みを教えてください。

“信用”“信頼”できる情報を届けることで、京都府民、滋賀県民の需要に応えることが出来る、というのが私たちの強みです。その役割を果たせているかという判断は読者がするものなのですが……。

具体的に教えてください。

私たちは京都府内、滋賀県内にそれぞれ100人以上の記者を配置しています。なので、全国紙と比べて圧倒的に地元の事柄を把握しています。例えば、「コロナの感染者数」を知りたいとします。ネットや全国紙の情報だと断片的で、京都や滋賀のどこで感染者が出たのか、という情報は手に入れ難いです。しかし、私たちはそのような情報も提供することができます。実際に、定期購読者数は減りましたが、コンビニなどでの販売部数は増えています。それは、不安な現状で京都や滋賀に根差した情報がさらに必要とされている証拠のように感じます。だからこそ、私たちはその需要に応えていかなければなりません。

(写真:京都新聞社の取材ネットワーク/パンフレットから抜粋)

地元に根差す京都新聞社さんだからこその強みであり、大切にしなければならないもののように感じます。ところで、山内社長はHPで「新聞作りの要は人です」とおっしゃっていました。それについて詳しく教えてください。

人は会社にとって財産です。一人を雇うにしても莫大なお金がかかります。しかし、人はそれ以上の価値を生み出してくれます。

なるほど。では、山内社長の「求める人物像」を教えてください。

ジャーナリズムに携わる記者に求められるのは「相手に嘘をつかれない関係を築ける能力」つまり、“信用”“信頼”です。

その“信用”“信頼”を築くためにはどうしたらいいのですか?

取材対象や読者に対して誠実に向き合うことが大切です。私たちの社是として「われらは正義を守る」「われらは自由を守る」「われらは真実を守る」の3つの羅針盤があります。
私はそうした理念に立ち返ることが本当に大切だと思います。社員にはその理念を大切にして、誠実に向き合える人になって欲しいです。

“誠実さ”ですか。

そして、「失敗してもそれを糧にして高みを目指せる精神」もジャーナリズムに携わる者として求められます。

どういうことですか?

人には良いところが必ずあります。個人がその長所を活かすことが大切ですし、私や会社全体が個人の長所を活かそうとすることが重要です。そう言うと「求める人物像」が大まかになってしまいますが、「失敗してもそれを糧にして高みを目指せる精神」は譲れません。分かりやすく言うと、「意欲」があるかどうかです。「意欲」がないと、個人のその長所を誰も活かすことは出来ません。

(写真:取材風景)

「意欲」を持つことはすべてにおいて大切ですよね。では、最後に大学生にアドバイスをお願いします。

本や新聞、テレビニュース、ネット記事、どんなメディアでも良いので、世の中の情勢に関心を持つべきです。

どうしてですか?

大学生活は社会に出る前の通過点だと思います。社会で活躍するためには、その準備期間である大学時代に社会を知ることが大切です。社会を知る方法は沢山あります。例えば、アルバイト。しかし、アルバイトはそのアルバイトの中の限られた社会しか見ていないという点で中途半端なものだと私は思います。広く社会を見るためには、メディアを通して、「世の中ではどんなことが起きているのか」に関心を持つことがとても重要です。そうすることで、自分の立ち位置や役割を認識することができます。さらには、それが「意欲」へと繋がります。

社会での自分の立ち位置や役割を認識することで、仕事を「お金を貰う手段」だけではなく、「広く社会と関わる手段」と認識することが出来る。そして、その認識が「意欲」へと繋がるということですね。山内社長、本日は楽しい時間をありがとうございました。