リアルワールドデータ株式会社 尾板 靖子 社長

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尾板社長、本日はよろしくお願いします。早速ですが、リアルワールドデータ(以降、RWD)さんは何をされている会社ですか?

私たちは自治体所管の乳幼児・学校健診情報や医療機関の保有している電子カルテ由来の診療情報を収集し、統合したデータベースを構築、分析し、住民や地域、医療現場に還元・利活用することで、より良い社会を目指す会社です。

健診情報や診療情報とはどんな情報が含まれるものですか?

健診情報は、生まれてからすぐに行われる乳幼児健診や小学校から中学までの義務教育の中で行われる学校健診情報です。診療情報は医療機関の電子カルテ由来の情報で、病院での検査・治療情報に関連する情報が該当します。

全国の自治体や医療機関からお預かりした情報は、どのようにして取得し社会に還元されているのですか?

健診情報の場合、まず、参画自治体の中学校に訪問して、保健室に保管されている、紙の健診帳票をスキャナーで読み取り、OCR(光学的文字認識 手書きや印刷された文字を、イメージスキャナやデジタルカメラによって読みとり、コンピュータが利用できるデジタルの文字コードに変換する技術)を使って電子化・標準化しています。そうして、電子化された健診情報をひとりひとりの生徒・児童(保護者)にお還しするだけでなく、参画自治体にも毎年1回、自治体全体としての分析結果レポートをお還ししています。例えばレポートには、「この地域にお住まいの方々は虫歯が多い傾向があります」というような、単純な集計情報ではなく地域等で比較できる傾向や特徴の可視化を実現しています。

健診情報に関してのお話を聞いただけでも、とても貢献性が高い事業だと理解できます。OCRを使い、紙媒体に記載されている健診情報を電子化・標準化するだけでなく、それを分析することでさらなる発展に寄与されているんですね。

そうですね。健診時期や健診内容は各自治体で少し異なっており完全に統一はされていません。さらに紙帳票のために保存できる環境も制限されており、多くの自治体で重要な健診情報が一定年限を過ぎると破棄されてきました。私たちは重要な健診情報を利活用可能な形式に変換して蓄積・還元し、個人や地域の健康増進や予防医療、地域の福祉政策に寄与するために、健診情報の電子化と還元を行っています。その実現に欠かせないOCRは6~7年前から常にディープラーニング(人間が自然に行うタスクをコンピュータに学習させる機械学習の手法のひとつ)されていますので、アルファベットや数字などの読み取り精度は90%を超えています。

凄いです!

そして、電子化・標準化された健診情報は半永久的に自身のスマートフォン端末から電子生涯健康手帳(PHR=Personal Health Record)として無償で保有・閲覧することができます。過去の健診情報をいつでも手軽に確認できると、一時的な検査結果や、その場の容態だけを診て医師が判断することを防ぎ、目の前の医師が迅速かつ適切な判断ができる可能性を高めます。

病院に行くと、医師に「経過観察しましょう」と診察されることはしばしばあります。その場合に、検査結果や容態と過去の健診結果を照らし合わせることで、手がかりを見つけ、担当医師の治療における意思決定を早めることができますね。

そうです。そのように、お預かりした健診情報を個人に還元することで、重症化予防や健康増進に繋げることができます。そして、地域や環境によって人々の健康状態が異なることを可視化することは、将来的に自治体が実施すべき健康政策に繋がります。

(写真:リアルワールドデータ(株)ロゴマーク/HPから抜粋)

なるほど。ちなみに、診療情報に関しては、どのように社会へ還元されているんですか?

健診情報と違って、診療情報は個人に還元することはできないので、参画医療機関に対して、一例ですが「貴医療機関は全国に比べて〇〇の数値が低いですね」といった臨床分析レポートをお返ししています。分析については、大きく分けて2種類あります。ひとつは医療行為等の分析結果をまとめた臨床レポートです。もうひとつは、「同一医療圏内等の比較で可視化される近隣病院との手術数の比較」など、病院経営陣が知りたい、経営の指標になりうるレポートです。そもそも、他の医療機関と比較を行っている医療機関は多くないです。(各医療機関が、他の医療機関のデータを持ち合わせていませんので)貴重な情報をレポートとして提供することで、医療現場の改善や医療の評価に寄与していると考えます。

少し気になっていることですが、金銭のやりとりはどこで行っているんですか?

健診情報や診療情報を自治体や医療機関からお預かりし、自治体や医療機関、個人に還元することを、私たちはデータの一次利用と定義しています。その一次利用に関しては、現在無償で行っています。「情報」とは情けに報いると書きます。情報を提供して頂いたこと(情け)に報いる形でレポートを還元し、健康社会を実現することを目標としているからです。そうして、お預かりした健診・診療情報を学会や研究機関、産業界に対して利活用することは有償で行っております。

その二次利用について教えてください。

二次利用では、利活用できる形式に標準化・電子化し情報を、学会や研究機関、大学等のアカデミアに提供しています。また民間企業等の産業界に対しても情報提供しています。ここで初めて、研究費や売り上げがもたらされています。

そうなんですね。国の政策のひとつではないかと思うくらいにとても将来的に必要な事業だと感じています。そして、健診情報、診療情報。どちらも、分析はとても専門的で、簡単な作業ではないと思います。誰が行なっているんですか?

社員に多数の疫学家や統計家が在籍しています。多くは医師、医療従事者です。彼らがお預かりしたデータを統計・解析することで、レポートや利活用が可能になったデータセットやサマリ等が作成されています。

RWDさんの場合、関わる業界が医療業界なので、医療情報も扱えるスペシャリストということになりますね。

そうですね。医療従事者かつ統計・解析等の専門的知識を有している優秀なメンバーは弊社の強みのひとつです。そのような専門家を揃えているので、弊社のみでデータセットの納品~分析・還元、研究支援からコンサルティングまでをワンストップかつ短期間で納品することができています。

他に強みはありますか?

私たちが保有しているデータベース自体、私たちしか持っていないものが多数あります。これも強みのひとつです。

確かにそうですね。誰も成し遂げていないことをRWDさんは試みています。実際にどのくらいの数の情報をお持ちなんですか?

健診情報で言いますと全国に1741の自治体(市区町村)が存在します。現在、私たちはその1割程度をカバーし、将来的に全ての自治体に本取組にご参加頂きたいと考えています。診療情報に関しては、現在218の医療機関から情報をお預かりしています。総患者数は約2309万人にのぼります。

(写真:取材風景)

将来的にはこうした情報を社会のために利活用してほしいです。ところで、RWDさんはどのように始まった会社なんですか?

2013年の川上教授(川上 浩司 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 教授)との出会いがきっかけです。私が通っていた眼科の先生に新規事業のご相談をし紹介されたのが川上教授でした。

尾板社長は川上教授と出会うまで、何をされていたのですか?

私は(株)リクルートで独立支援メディアの営業を経験した後、広告・デザインの会社を経営していました。営業が私ひとりだけだった時はクライアント150社を担当するなど、将来を考える暇もない30代前半を過ごしました。やりがいなく広告販売を機械的に行う自分と将来に不安を感じて、公益性のある新規事業を考えるようになり、興味を持ったのがヘルスケア業界でした。

どうして不安を感じられたのですか?

広告を売ることが目的になっていたからです。そんな働き方に大きな違和感を覚え、次に事業を行うのであれば、人のため、社会のためになるような事業に人生を賭けたいと思うようになりました。

実際に川上教授と出会い、どのようなお話をされたのですか?

川上教授には、日本は国民皆保険制度のもとに誰もが健診や医療を受けられる制度を持つ国なのに、その素晴らしい制度や取得されている情報を活かしてきれてない、という現状を教えて頂きました。そして、その制度を最大限に活かせば、「どのように生まれた赤ちゃんはどのように学童期に移行し、どのような子供はどのような病気になる可能性があるのか。どういう人がどんな病気にかかりやすいのか」ということが明らかにでき、個人単位での健康・医療の歴史を紡いでいけるようなライフコースデータが確立できる、ということをご教示頂きました。

本職が教授である川上教授は、ライフコースデータが完成される社会の実現に向けて、自身の代わりに取り組んでくれる人を探していた、ということですか?

そうですね。私はその話を聞いたとき、壮大すぎて腰を抜かしました(笑)。すぐには答えを出すことはできませんでしたが、ライフコースデータが完成された社会の実現が私の追い求める、理想の事業であることを確信したので、2014年、後にRWDと合併する(株)学校健診情報センターを設立しました。その翌年に、RWD(株)を設立し、2019年に両社を合併し、現在に至っています。

今、社員さんは何人いらっしゃるんですか?

およそ100人います。

未開拓の事業をひとりで始め、現在およそ100人でライフコースデータが実現する未来へと進まれていると思います。今改めて、7年前に大きな決断をした自分をどう思いますか?

一言で、「凄いな」と感じます。当時、多くの人にそのハードルの高さから、「無謀だ」と止められました。まだまだ道半ばですが、それでも諦めずにやってきた自分の判断は間違っていなかったと感じています。同時に、支えてくれた方々には感謝でいっぱいで、責務を果たす想いはより一層強くなりました。

では、そんな尾板社長の「求める人物像」を教えてください。

諦めずに粘り強く物事に取り組める人です。

どうしてですか?

私たちは、誰も実現できていないことを実現しようと、日々試行錯誤で取り組んでいるからです。それは道のないジャングルの中を進むようなものです。そんな中でも失敗を恐れず何度でも挑戦し続ける諦めない気持ちが重要になってきます。

諦めず、挑戦し続けることは簡単なことではないですが、とても大切なことですね。

はい。今までの当たり前を疑うことも大切です。私たちの行動指針のひとつに「常識を疑い、挑み続ける」という指針があります。色々な視点から物事を見つめ直し、その物事に粘り強く取り組もうとする人物、私たちの行動指針に共感して頂ける人物が来てくれると嬉しいです。

では最後に、大学生にアドバイスをお願いします。

社会に出た時、大学生時代の経験はとても役に立ちます。私の場合は沢山のアルバイト経験でした。

どうしてそのように思うのですか?

私自身が社会に出た時、アルバイトを通じて得た経験がとても役に立ったからです。私の場合は、国公立大学以外に進学する場合は自分で学費を払うという親との約束があったので、私大に進学することになった私は必然的にアルバイトで学費を工面しなければならない大学生活を送ることになりました。学費を工面するため、大学生活の多くの時間を費やしたので、たくさんのアルバイトを経験しました。そんな生活の中で得た、営業力や忍耐力などは社会人になって活きました。ここで営業力や忍耐力が養われてなければ、いまの私は無かったのかもしれません(笑)

とても忙しい大学生活を送られたんですね。後悔はされていないのですか?

バイト漬けになりながらも、学校もひと通り楽しめました。周りの友人に恵まれていましたね。人生は良くも悪くもすべて繋がっていると思います。なので、いま大学生の方々には後悔して欲しくないです。行動した結果の後悔ではなく、行動しなかった後悔だけはないように、限りある貴重な大学生活を送ってください。大学生の皆さんには、体力や気力が充分にあります。その機会を活かして、是非、色々なことにチャレンジしてご自身の可能性を醸成して頂きたいです。

チャレンジする際も、諦めない気持ちが重要になってきますね。尾板社長、本日はありがとうございました。

本日は取材にご協力頂き有難うございました。