COS KYOTO株式会社 北林 功 社長

2021年4月28日#IT,#文化

北林社長、本日はよろしくお願いします。初めてのZoom取材で少し緊張していますが、精一杯努めさせて頂きます。早速ですが、COS KYOTOさんは何をされている会社ですか?

私たちは自律・循環する社会を目指して、地域で培われてきた地場産業が時代に合わせたアップデートをサポートし、文化交流イベントの企画や運営、関連する物販や研修などを実施している会社です。日本は長い歴史と風土の中で独自の文化を育み、それを産業と結び付けてきました。そんな各地域で培われてきた文化を軸とした「文化ビジネス」を研究し、それを世界にも発信することで自律・循環する社会に繋げていくことが可能だと思っています。

どうして自律・循環する社会を目指しているのですか?

自律・循環する社会が実現できると、100年先も私たちは豊かに生きることができるかもしれないからです。逆に言えば、このままだと100年先、今のように生きることはできないと思っています。

なるほど。ではどうして、自律・循環する社会を目指す際に、地域の地場産業にフォーカスされているのですか?

江戸時代は鎖国という状況下で、他国に頼らず基本的に経済は地域コミュニティ単位の「藩」で完結し、安定した超低成長を続けていました。それは、資源は基本的にすべて植物性由来で、エネルギーも太陽、水力、人力で賄われていたほか、生産と消費はリサイクル・リユース・リターンを前提としていて、さらには地域の地場産業をベースに文化が成熟していったからです。言わば、その時代は自律・循環する近代的な社会が実現できていたと思うのです。私はこの江戸時代の経済の仕組みを「Edonomy®」と呼んでいます。しかし、今は「SDGs」が叫ばれるように、自律・循環する社会の危機に陥っています。ですので、私はかつて「Edonomy®」を支えた、100年・1000年と続いてきた地場産業が培ってきた叡智に目を向け、それが未来を切り開く光だと思っています。

具体的にはどのような取り組みをされているのですか?

活動のひとつとして「DESIGN WEEK KYOTO」という一般社団法人を立ち上げています。そこでは、「京都のモノづくりの現場をオープンにし、国内外から訪れるさまざまな人との交流を促進することで、新たなモノやコトを創出する」というコンセプトで京都をより創造性のある街へとしていくきっかけの場作りを実施しています。

国内外の多くの知見を「DESIGN WEEK KYOTO」という場で重ね、新たな文化の創出を促進されているんですね。まさにアップデートですね。「DESIGN WEEK KYOTO」は人々の交流の手段としてオンラインを主に活用されているのですか?

いいえ、あくまでもリアル重視です。どのようにしてオンラインをツールとして補助的に使うのかを考えています。

リアルな交流とオンラインでの交流、両者についてどのように考えていますか?

リアルとオンラインを対極に考えることはありません。モノづくりの人はよく「リアルの方が良いに決まっている」とおっしゃることがありますが、リアルとオンラインを比較するのではなく、きちんと両者の特徴を把握することが大切です。しかし、その両者の特徴を完璧に把握するのは非常に難しいので、根本的に「〜の方が良いに決まっている」と決めつけずに色々な取り組みにチャレンジしていくことがより良い交流の実現に繋がると思っています。

交流の手段に完璧な正解はなく、より良い判断が求められているのですね。ちなみに「COS KYOTO」の「COS」はどういう意味なんですか?

「COS」は日本語の「濾す(こす)」から来ています。不要なものは削ぎ落としてエッセンスを抽出し、本物を次世代に残したい、今も残る文化を現代に合わせてアップデートする、という意味を「濾す」で表現しています。ロゴマークもフィルターで濾しているイメージで作りました。

(写真:COS KYOTO株式会社ロゴマーク/HPより抜粋)

とてもビジュアルが綺麗にまとまっているロゴマークだと思います! 主な活動地域は京都なんですか?

主に京都です。実家が奈良ということもあり、奈良の活動も多々あります。

奈良がご実家なのに、どうして活動の中心が京都なんですか?

京都が一番“大変そう”だったからです。

どういうことですか?

京都は積み重ねてきた歴史や文化が日本の中でも圧倒的に多い街です。それ故、良い意味で誇り高く意識が高いのですが、保守的な仕組みも少なからず存在します。それって日本の各地でもよく見られる話ですよね。そのため京都での挑戦の経験は他の地域でも応用が効くからです。そして、日本から世界に発信する上でやはり文化都市である京都の役割はとても大きいという考えもありました。

実際にCOS KYOTOさんが京都で関わった事業を教えてください。

例えば、祇園祭。2018年に祇園祭ので山鉾をアメリカ・オレゴン州のポートランド日本庭園で展示する取り組みを行いました。

アメリカで祇園祭ですか!? そこで苦労したことはありましたか?

1100年以上続く祇園祭の歴史の中で、山鉾が海外に渡ったのは初めてのことで、前例がなかったことに苦労しました。前例がないことから行政等もなかなか前向きな反応は得られませんでした。批判的な意見も多かったのですが、一方で保存会の方々や地元企業などのご縁やご協力もあり、そのプロジェクトに前向きな方々のサポートをいただき、成功することができました。

(写真:綾傘鉾/ポートランド日本庭園 「Year of KYOTO 2018」)

逆風の中、どうして成功できたと思いますか?

もちろん周りの皆さんの助けのおかげです。あと強いて言えば私が「京都外のひと」だからこそ成功することができたのではないかと思っています。私が京都に何もしがらみのない者だからこそ、ポートランドで祇園祭の山鉾を展示しようという、前例のない、思い切った発想や取り組みが可能だったような気がします。

それはもうCOS KYOTOさんの強みと言っていいですか?

はい。「外のひと」だから既成概念に囚われない、これが私たちの強みです。歴史上もそうだったように、変革を起こすには「外のひと」の存在が欠かせません。「外のひと」だから既成概念に囚われず、思い切った発想ができる、変革のきっかけを与えることができます。

コロナ禍の今は、どのような取り組みをされているんですか?

今は、京都と海外をオンラインで繋ぐ取り組みをしています。京都の工芸の現場をヨーロッパやアジアの方にオンラインで見てもらい、文化交流を図っています。工芸などの自然環境の中で育まれた地場産業に携わる人は世界的に見ると貴重なことをしているのに、当人はその貴重さや叡智に気づいていない。非常に勿体ない現状があります。なので、私が「外のもの」として、その価値や叡智を見える化し、それを国内外の多くの方々に知っていただく、学んでいただけるようなツアーやセミナーなども展開しています。

オンラインで簡単に文化交流が図れることはとても良いことですね。では、COS KYOTOさんのこれからのビジョンを教えてください。

「観光」の本来の意味を取り戻していきたいです。

どういうことですか?

これまでの観光は有名スポットで写真を撮るなど、その場所に訪れること自体に重きを置いていると思います。訪れることだけに重きを置くのではなく、その地域に眠る光(lux/ラテン語)を観にいく、歴史に触れ、人と交わり、体験することで現代に残る叡智を学びにいくことが本来の観光です。それが本物の贅沢(luxury)な体験であり、そうした「ラーニングツーリズム」も広めていきたいです。

(写真:北林社長/COS KYOTO(株)から提供)

ラーニングツーリズム、とても面白いです。では、そんな北林社長の「求める人物像」を教えてください。

私たちは自分たちだけで何か生み出したりすることはできません。色々な知恵やノウハウ、スキルを持つ人たちとチームになって仕事をしています。なのでまず、コミュニケーション力は欠かせません。そして、貪欲さがある人が良いです。

貪欲さとは具体的にどういうことですか?

成長しようとする貪欲さです。強い意志と学び続ける謙虚さを兼ね備えた貪欲さが成長を導くと思っています。「軸がぶれない」と「頑固」は似ているようで違います。「頑固」と違い、「軸がぶれない」は柔軟性を持ち、自分の軸を中心に変化することができます。そんな柔軟性を持った貪欲さがある人が求められています。

なるほど。

そして、私たちと同じ方向性の価値観を持っている人が良いですね。

COS KYOTOさんの価値観は何ですか?

先ほども言いましたが、「自律・循環する社会を実現すること」です。同じ志を持った仲間と、今と未来の社会をより良くしていきたいですね。

そうですね、その価値観に賛同できないと一緒に仕事をする上でズレが生じますね。

一番譲れない部分はそこかもしれません。方向性が違うと議論になりませんから。

最後に、北林社長から大学生にアドバイスをお願いします。

目先のことを考えずに100年後を見て生きてほしいです。

どうしてですか?

いつ死ぬかわからない時代に、私たちは生きているからです。たった41年の私の人生で阪神・淡路大震災や同時多発テロ、東日本大震災、新型コロナウイルス大流行など、いつ死んでもおかしくない出来事が何度も起きました。そんな世の中で、目先のプライドや欲望などの近視眼的な価値観で一生を決めるのではなく、100年後の社会のために自分は何ができるのかを考えて生きてほしいです。私は100年後の社会のために自律・循環する社会の実現を目指しています。

いつ死んでもおかしくない世界で100年後のために生きる、自律・循環する社会の実現のために生きる、そんな北林社長の考え方に触れたことは貴重な体験でした。北林社長、本日はありがとうございました。

取材にご協力頂き有難うございます。